山の歩き方《下り編》

さて、山を下るためのテクニックは、基本的に登るときと同じです。
まず、姿勢についてですが、やはり頭から腰、後ろ足にかけて一本の体軸を作ります。しっかりと体軸をつくったら前の足の膝を上げて下におりします。
ただし、登る時のように膝を高く上げる必要はありません。心持ちスッと上げるといった程度で構いません。歩幅はやはり狭く。持ち上げた膝をそのまま下におろせば、足首が膝より前に出ないぐらいの歩幅を保てます。
膝よりも前に足首が出るようであれば、歩幅が広すぎるということです。もし、スキーをやる方なら、板を揃えて滑るときの格好を思い浮かべてみて下さい。軽く曲げた膝よりも前に足首が出ていることは無いはずです。それと同じ姿勢で下ればいいのです。

右足と左足の間隔は、自然に立っている時と同じぐらい、だいたい5〜10cm離れていればOKです。

下りでの前の足の着地は、登り同様、靴全体を地面につけますが、つま先から着地するイメージで足を出すとうまくいきます。
靴底を静かに置くような感じで行うと良いでしょう。
前の足が着地した瞬間にすべての荷重が前の足にかかってくるような下り方、つまりピョンピョン飛び跳ねるような下り方は前の足への負担が大きく、膝を痛める原因となります。
前の足が着地したときには、まだ荷重は後ろの足に残しておいてください。その後、前の足のかかとから土踏まず、つま先へと徐々に荷重を移していき、すっかり前の足の荷重された次の瞬間に後ろの足を前に出します。この時膝をスッと持ち上げるのがコツです。

また、体の軸は、常に地面と垂直になるように保ちます。恐怖心から腰が引けていると軸が後方に倒れ、スリップしやすくなります。逆にスピードがつきすぎたりしていると軸が前に倒れている前のめりの姿勢になり、バランスを崩して前方に転げ落ちる危険があります。
なお、「登り編」で紹介した同じ側の腕と足を同時に前に出して腰を回転させる歩き方は、下る時にも有効です。重心移動がスムーズに行われますので、下りが苦手な方はぜひお試しを。

ここからは、下り専用のテクニックを紹介します。

先に述べたように、下りでは出来るだけ小刻みに歩くのが効果的ですが、これをのんびりやっていたのでは重心移動がスムーズにできず、足が疲れてきてしまうことがあります。しかも時間がかかりすぎます。
なるべく足に負担をかけたくないなら、小走りになるぐらいのスピードでリズミカルに下っていきましょう。

下る時に一番気をつけなければならないのは、スピードのコントロールです。下りは重心の法則に従うことになるため、どうしても加速度がついてスピードが速くなりがちです。
登山道の状況によっては、重心に逆らうことなく走るようにした方がうまく重心移動ができ、膝や足首に負担がかからない場合もあります。
しかし、山に慣れた人ならスピーディーかつ安全に下ることができても、山を始めて間もない人が行うとスピードをうまくコントロールすることが出来ないことがあります。

同じ高さの段差が規則的に続く駅などの階段なら駆け足でも下ることも出来ますが、登山道の状況というのは決して一定ではありません。木の根や石などの障害物も至る所にあります。もしもつまずいたら大怪我をする可能性もあります。だから登山道の状況を見極めながら、その状況にあった無理のないスピードで下りることが大切です。ここでいう無理のないスピードとうのは自分が止まりたいと思ったところで無理なく止まれるスピードたと解釈してください。それも急ブレーキをかけるような止まり方では膝を痛めてしまいます。下りの場合はスピードが出ている分早め早めの状況判断が必要となります。迷いや躊躇は体のバランスを崩しアクシデントの原因となります。自信がない時はゆっくり下るといいでしょう。また、蛇行しながら歩けば、重心による加速を抑えることができます。スキーですべる時と同じです。

段差を下る時の最も悪い例は、上体や腰が引けた体制で、前の足が段下に着地すると同時に全体重がそこにかかってきてします下り方です。
この下り方は、一歩ごとに飛び込むような姿勢になることから全体重を前の足で支えることになるため膝の靭帯を痛めやすく、また前のめりになりバランスを崩すと大変危険です。段差下りのポイントは、荷重を最後まで後ろの足に残しておくことです。段差がそれほど高くない低段差、中段差の場合は、腰の位置が常に後ろの足の上にくるように意識していると、荷重を最後まで後ろの足に残せます。前の足を段下に着地させるときには、歩幅を狭くして段のすぐ下に足の裏全体を静かに置くようにします。この、段下への前の足の位置が決まってから、重心を移動させるようにすれば、飛び込むような下りになりません。また、あまりスピードを落とさずに、ある程度リズミカルに下るように心がけると、滑らかな連続行動が行えます。

段差が高い場合は、段の上で一度しゃかみ込んでから前の足を伸ばして下の段に置くようにすれば、最後まで後ろの足に荷重が残るので、前の足の膝に大きな負担をかけずに下ることができます。このときも、あくまで前の足が着地してから重心移動しましょう。高い段差だとつい飛び降りるようなかたちになりますが、やめておきましょう。また、段の上でしゃがみ込むときに、体の向きを進行方向に対して真横か斜めにして手をつくと、より姿勢が安定します。

戻る